去る2月6日の夜、アメリカで第45回スーパーボールが行われました。
今までは結果や流れたCMを事後に見ていたんですが、今年はアメリカにいるため、初めてライブで(もちろんテレビで)見ることができました。
1ヶ月前くらいからもうメディアもみんなもそわそわしてきてて、今回放映するFOXだけでなく各局がこのことを話題にし、またその夜は家での観戦が多い、ということからスーパーや宅配のお店など、チラシにもそのことを意識しているものが沢山。
面白いのは、公式スポンサーしか「スーパーボール」という言葉を使えないんですが、その代わりみんな「Big Game」という言い方をしていて、それがもちろん一般消費者には何を意味するかわかるので特に支障はない、ということ。
さて今回のスーパーボウルは視聴者総数の1億6290万人、平均視聴率46.0%で平均視聴者数の1億1100万人ともに史上最多、ということでしたが、このスーパーボールは毎回面白いCMが流れることでも有名です。
今回のCM枠は、30秒CM1本で300万ドル、約2億5000万円と世界一高額なものです。30秒ベースでの千人あたりの到達コストは
2.5億円÷1.11億人×1000=2252円。
これに対して日本のゴールデンタイムの番組提供料金をざっくり月額30秒で2000万円(=1回当たり500万)、平均視聴率10%とすると(本当は世帯視聴率ですがざっくりそれを人口に当てはめて)
500万円÷(1.2億人×0.1)×1000=416.7円、と、単純な効率からすると日本とは比べ物にならない額なのがわかります。
ただしこの番組に流れるCMは面白い、ということでみんなが注目&ネット等で話題にするので、絶対額や単純な効率を別にすればメディアとしてはかなり魅力的なものとなります。
そこで流れたCMに関し、色々な事後評価がありますが、その中でも最も有名なもののひとつがUSAトゥデイが行うAd Meterです。それぞれのCMが流れた際の視聴者の注目度を秒単位で測るもの、だそうで。
その結果、全61CM(FOXの番宣を除く)のランキングとそれぞれの作品を見ることができるサイトがこちらです。
今回のトップは、同率首位でバドライトの留守番中に犬にパーティーの手伝いをさせる作品と、チップスのドリトスのバグ犬、とダブルわんこの作品となりました。
ただ、私が実際に今回のゲームの合間に流れるCMを見ていて思ったのは、「確かに面白くユーモアのある、笑わせる・話題になる事を狙った『作品』が多いけど、肝心の商品名やそのベネフィット、差別化のポイントとかをちゃんと組み込んでいる『広告』が少ないんじゃない?」ということでした。
厳しい言い方をすると、視聴者を楽しませることに主眼を置きすぎたものが(特に大手広告主のものに)多く、単に『各企業がスポンサーした(&ブランド名や商品がちょっと入った)映像作品お披露目大会』というイメージが。
で、AdAgeの(この間引退した)コラムニストのBob Garfield氏が久々にスーパーボールのCMのコラム「VW Finds Viral Force With Cute Ad, but So What?」を書いていたのですが(英語)そこで書かれていたのは
「流れたCMは楽しく、ネットでも話題になり、例えばVWのダースベイダーキッズのCMはYouTubeで1000万回見られたようだが、ネットに書かれているのはCMの子供がカワイイ、とかVWのCMがよかった、というものばかりで、VWの何の車だったかを記しているものは皆無だった。VWはポジティブなアテンションを取ったが、残念ながらそれは車に対してのものではなかった」
・・・ということで、思わず私も自分の認識を認めてもらったような、テストでいい成績を取って先生に褒められた子供のような気持ちに(笑)
確かに「視聴者のブランドに対する好感度を上げることに注力したCM」と言えなくもないんですが、これらの大手がそのためだけに30秒で300万ドル、2.5億円も払ってるの?という気もしますし、何だか、「全米の半分以上の人が見ている、しかもそこで流れるCMをみんな楽しみにしている番組にうちの企業のCMを流して、ネットで話題になったぜ!」という関係者の自己満足が強いのでは、と邪推してしまいました(笑)
さて、その『広告』(『作品』ではなく)の中で私が好きだったものを以下にいくつか。(タイトル名は私が勝手につけたもので正式名称ではありません)
a) ドリトス 『パグ』 (USA TODAY調査同率1位)
・内容: 男性が、彼女の飼っているパグをからかおうと、「ほら、ここにドリトスがあるぞ!」と庭にいるパグに見せ、一目散に走ってくるとガラスのドアを閉めてしまいます。彼女が「からかうのは止めて」と言うのですが、言うことを聞かずに部屋の中から相変わらずドリトスを見せ続ける彼。パグが迫ってきて、さてどうなる?
・ポイント: スナック、という軽いカテゴリーの商品で、楽しみながら食べよう、ということを前提にし、まあ動物を使うのは赤ちゃんを使うのと同様ちょっとイージーじゃないの?と思いつつもとても楽しめて、そのくらい魅力的、という形で商品的なメッセージも記憶に残りました。
b) フォルクスワーゲン 『ビートル』 (USA TODAY調査12位)
・内容: 虫たちが動き回る世界で、ある虫がものすごいスピードで走っていきます。途中ムカデにぶつかりそうになるも見事にかわし、その後ジャンプして着地を決めると、その虫のシェイプだけが残って(それが車のシェイプに見えて)「新しいビートル、まもなく登場」のコピーが。
・ポイント: その独特の形状から根強い人気を持つVWのビートル、その名前の由来という原点に戻った発想。見ている側にもそのことを再認識させ、イメージの差別化を上手に醸成してます。
c) バドライト 『キッチンリフォーム』
・内容: リフォーム番組「JOB HACK」という設定で、リフォームが終わったキッチンを見に行く興奮気味のカップル。実際に変わったのはそのテーブルの上にバケツで冷えたバドライトがあるだけ。でも旦那は大興奮、奥さんは「もしかしてバドライトを乗せただけ?」と番組MCに聞き、彼は「正にその通り!仲間が集うには最高のセッティング!」と答える。その後、仲間たちも入って楽しげに過ごす中、ちょっと戸惑い気味な笑顔を見せる奥さん。庭にも粋な計らいが…
・ポイント: 最近こちら米国でもリフォーム番組が人気で、それを逆手に取った見事なパロディでありながら、例年話題になる「おバカで面白いバドライトのCM」という期待に低制作費で応えてくれました。
もちろん、今年もものすごい制作費をかけたと思われるものもありました。以下ご参考までに:
・コカコーラ(同25位): 未知の世界での戦い、迫り来る無敵のドラゴンに対抗する方法は・・・
・KIA(同39位): レベルがどんどん上がっていくKIAの新車の取り合い、勝ったのは?
・クライスラー(同44位): あのエミネムを広告に起用、ということで事前の話題はかなり高かったと思います。
・モトローラ・モビリティ(同47位): アップルの有名なCM「1984」をシリアスにパロディにし、iPad一辺倒の世界を風刺するその姿勢は買いたいんですが…
・リプトン・ブリスク(同50位): こちらもエミネムを起用、クレイメーションの彼に「何で俺はCMに出るのが嫌いなのか」を語らせるんですが…?
・ベストバイ(同53位): オジー・オズボーンとジャスティン・ビーバーの共演、ということで事前の話題は一番だったと思います。
あと、別の意味で話題となったのが以下の二つでした。
・毎年、確信犯的な俗悪系CMでわざと煽ってサイトを覗かせるという手法を取っているGoDaddy.com、今回の2CMは全61CM中52位と59位、となり、また世の中的にも話題にならなかったという事実が話題になった皮肉な結果に
・日本でも何かとお騒がせなデジタルクーポン会社、グルーポンの広告(同41位)がチベット問題を軽く取り上げすぎ、という批判で騒がれる
とはいいつつも、これだけそのCMが話題になる番組が毎年ある、ということ自体はマーケターとしてはとても羨ましいことかもしれません。
さて、皆さんのお気に入り・評価はどうだったでしょう?