資生堂/マキアージュ/「風を感じて」「それは唇から」篇

[CM内容] http://www.shiseido.co.jp/mq/index.htm (ブランドのサイト:画面右下の「CM情報」をクリックするとCMの画面)、もしくは、
 
 ・資生堂の大型新ブランド、『マキアージュ』(今までの『ピエヌ』と『プラウディア』を統合したブランド)の新発売告知CM。
 
 ・篠原涼子(31)、伊東美咲(28)、蛯原友里(25)、栗山千明(20)の4人を起用し、それぞれが友人として設定された役(篠原涼子:お姉さん的存在のフリーペーパー編集者、伊藤美咲:マイペースのウェディングプランナー、蛯原友里:お天気キャスターを目指す花屋の店員、栗山千明:伝説のタクシードライバー(!))を演じながらドラマ仕立てで進んでいく。キャンペーン最初の「風を感じて」「それは唇から」篇のどちらも舞台は水上バスのような船。
 
 ・「風を感じて」篇(30秒)はその屋上デッキで、二人ずつの会話から以下のように進む。
   篠原 「新しい口紅をつけるときって、ドキドキするんだ。」
   伊東 「儀式みたいに。」
   篠原 「始まりの、ね。」
   伊東 「何で泣いてるの?」
   篠原 「いろいろあんの。」
   伊東 「うん。あるある。」
   篠原 「あ!」
 
   蛯原 「そういうのはさ、目で語んなきゃ。」
   栗山 「語ってみて。」
   蛯原 「(栗山を見つめる)」
   栗山 「肌もまた、多くを語る。・・・あ!前田さん!」
 
   (4人で船上から橋の上の自転車に乗る男性に向かって手を振る)
   全員 「おーい!前田さーん!」
   ナレ 「ビューティークライマックス、始まる。」
   全員 「気持ちいいねー。」
   ナレ 「資生堂マキアージュ、誕生。」
 
 ・「それは唇から」篇は船内で、篠原と栗山の会話。
   栗山 (お互いの化粧の話をしている他の女性を見ながら) 「女同士って、厳しいこと言うのね」
   篠原 (口紅を塗りながら) 「だからキレイになるんじゃない?」
   (スーパー「それは唇から」)
   栗山 「そのうるんだ唇の君は・・・」
   篠原 (耳を半分ふさぎながら) 「なになに?」
   栗山 「街中で、浮く。」
   篠原 「褒められたの?」
   栗山 「かなり。」
   篠原 「やった!」
   (口紅の商品カット&ロゴ、スーパー「唇に美貌のりうつる、密なうるおい。」)
   ナレ 「資生堂マキアージュ、新・うるおいルージュ」
 
   ※ちなみに上記の栗山さんの「街中で、浮く。」のセリフは口の動きと合っていません。2chあたりの「解説」では、「掃き溜めに、鶴。」と言っているのを撮影した後で、街の他の人を「掃き溜め」と言うことに問題があるのでは、となり、セリフだけ変えた、という話ですが、果たして真実は?
 
 
 
[広告戦略(予想)]
 
<CM制作の背景>
 ・資生堂は90年代中ごろから消費者の多様化に応えるためにブランド数を増やし、2000年ごろから現在に至るまで約100種のブランドがあるが、「ブランド一つ一つが小粒になってシェアが落ち、そこに宣伝費を投じて消化不良になる悪循環に陥ってきた」(平田賢一・化粧品事業部マーケティング部長)ため、ブランドごとの収益効率が悪化してきている。よって、いくつかのブランドを統合して「メガブランド化」し、頭打ちの国内市場での売上のてこ入れをしていくこととした。
 
 ・今回の『マキアージュ』はその試金石となるメガブランドで、統合される『ピエヌ』と『プラウディア』の現在の売上、各年間200億円の合計をこえる約500億の売上を目標とし、そのために「一つのブランドの宣伝費としては過去最大級」の年間約40億円の宣伝費を投下することとした。
 
 ・その新ブランドの告知に向け、旧2ブランドのコアターゲットであった20代前半から30代前半までの年令も価値観も個性も多様化している層に対し、インパクトを持ってアピールできる広告活動を展開していく必要がある。
 
 ・なお、現在この世代では、就業率の増加や結婚年齢の上昇を背景に、自分にお金や時間をかけておしゃれや人生を楽しみたいという意識が高く、"いくつになっても自分を美しくする努力が必要"と感じている、「本物」「上質」「成熟した美しさ」を尊重する"オトナ化"意識が時代のムーブメントとなっている。
 
 ・よって、上記の年令層を中心に、年齢に関わらず「自分のキレイ」を磨き続けるオトナの女性に向けて、「トレンドを楽しみながらも、内面からの生命感と一体になった、より自分らしい美しさを表現するメーキャップブランド」として、ファンデーションなどのベースメーキャップから口紅・アイカラーなどのポイントメーキャップまでをトータルにラインアップしていく。
 
 ・なお、『マキアージュ』(maquillage)とは、フランス語のメイクアップ・化粧の意で、メーキャップへの想いと誇りを込めたネーミングである。
 
※参考:資生堂のプレスリリース http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=103837&lindID=4
 
 
<CMのターゲット>
 ・コアターゲット: 現『ピエヌ』・『プラウディア』ユーザーである25-35歳の団塊ジュニアを中心とした、国内ブランドの化粧品ユーザー(特にカネボウの同ランクの化粧品ユーザー)
 
 ・セカンダリーターゲット: 10代後半から20代前半、および35歳以上の「年令にかかわらず『自分のキレイ』を磨き続けるオトナの女性」を目指す人
 
 
<CMで最も伝えたいこと>
 ・マキアージュは、トレンドを楽しみながらも、内面からの生命感と一体になった、より自分らしい美しさを表現するメーキャップブランドである。
 
<ブランド戦略> (上記プレスリリースより抜粋)
 ・物理的ベネフィット: 「肌」「口もと」「目もと」という顔の印象度を決める3つのビューティーポイントにおいて、それぞれの人が際立てたいパーツの魅力を高めながら顔全体をスタイリングできる。
 
 ・心理的ベネフィット: その人自身と一体化した「リアルさ」と、生きいきと躍動感あふれる「ライブ感」のある表情美「リアルライブビューティー」により、それぞれの人が目指す自分らしい美しさを実現できる。
 
 ・サポート:  最先端の光学技術やナノテクノロジーを採用。新粉末「インナーライティングパウダー」は、"肌の透明感"のカギともいえる肌内光(肌内部から出る光)を外側に引き出す効果があり、その人の本来持つ肌の透明感を確実に高めるため、内側からの輝きを感じさせる生きいきとしたメーキャップとなる
 
 ・トーン&マナー: オトナの、多様な価値観を持つ、自分を磨く、生活を楽しむ
 
 
<広告アイディア>
 ・今まで彼女たちが探し続けてきた「自分らしい美しさを実現できるもの」という意味で『ビューティークライマックス はじまる。』をキャッチコピーにし、広告から店頭まですべての活動を展開していく。
 
 ・また、この世代の多様な価値観や個性を実現できるブランド、ということで、同世代から絶大な支持を受けているタレントからその多様さを代表できる人を複数起用し、それぞれが単なるイメージではなく、実際に生活している人、としてそれぞれに役柄をあたえてドラマ仕立てでストーリーを展開することにより、ターゲットにより共感・実感してもらえることを狙う。
 
 ・このタレントには、30代・ナチュラル系として篠原涼子、20代後半・クール系として伊東美咲、20代半ば・キュート系として蛯原友里、20代前半・モード系として栗山千明の4人を起用し、それぞれ篠原がエディター、伊東がウエディングプランナー、蛯原が花屋の店員、栗山がタクシー運転手という、多様な価値観でイキイキと生きる女性を演じていく。ドラマの舞台は東京とし、そこで積極的に生活している姿を見せることで、海外に対する憧れよりも今の日本の良さを理解できる・再発見できることを目指す(=外国ブランドとのイメージの一層の差別化と独自性の確立)。
 
 ・キャンペーンの立ち上がりのCM『風を感じて』は、その4人と役柄(価値観)をターゲットに紹介し、それを実現させる(そういう多様な価値観を持った人たちが使っている)化粧品ブランドとしてのマキアージュを訴求していく。『それは唇から』以降の展開においては、4人それぞれがいろいろな組み合わせで話したり行動していくことでその多様さを見せ、ターゲットの内容への興味を高めていく。
 
 ・また、この多様な価値観・個性を実現できる、ということを体験してもらうためにも、店頭においても今までにないレベルでの露出をはかり、ネットでも積極的にサポートしていく。
 
 ・加えて、この4人が実際に世界でそれぞれの価値観を持ってイキイキと活躍している女性(チェ・ジウ、オノ・ヨーコ、栗原はるみなど)を訪れてインタビューしていく、という内容の番組をブランド発売の日に『Tokyo美人物語』(http://www.ntv.co.jp/tokyobijin/)としてオンエアし、キャンペーンに連動させることで広がりと深みを加え、話題の一層の喚起を狙う。
 
 ・篠原が役でやっているフリーペーパーも実際に「創刊」し、駅などで限定配布してブランドが提供する価値観の一層の理解(および口コミ効果)を高める。
 
 
[出来上がったCMの評価(個人的)]  ★★★☆ (満点:★5つ、☆は0.5点)
 
 ・新・ウーノでお笑い芸人52人を起用してCMのギネス記録に挑戦するなど、最近の資生堂はかなり気合を入れたキャンペーンを展開しており、このマキアージュも事前の『この唇は誰?』という雑誌広告でのティーザーから始まり、多くの店頭での通常とは桁違いの露出、交通広告なども積極的に大量に使うなど、まさに「社運を賭けた」ものであることがわかります。
 
 ・また、増えすぎたブランドを「選択と集中」によりメガブランド化していく、という方向性も企業としては正しい、と。
 
 ・しかし一方、それによって「多様なターゲットを一つのブランドで捉まえなければならない」という宿命を負わされることになり、結果としてそれは複数のタレントの起用によるドラマ風での広告展開、という、割合とノーマルなタイプのキャンペーンとなってしまい、キャンペーン自体への驚き(=インパクト)が少なくなってしまいました。
 
 ・また、起用したタレントも(契約などの関係から止むを得ないとはいえ)ほとんどがもともと資生堂の別ブランドで使っている人たちであり、その意味からの新鮮さには欠けています。
 
 ・ストーリー自体、今後の展開で明らかにされるのかもしれませんが、なぜこの年令も価値観も職業も全く違う4人が友達なのか、がいまいち理解できず、「多様性を表現するための設定」であることが見ている側にわからせてしまう可能性もあります。(でも、もしかして見ている人たちはそんなことあまり気にしないのかな?)
 
 ・ということで、複数タレントの起用・ドラマ仕立て・東京が舞台、など、「想定内」のことが多すぎるのです。大物量作戦(40億円の宣伝費だとか)はそれを補う、という意味も含まれているのでしょうか?
 
 ・ただ、CM自体はとても丁寧に作られていますし、課せられた全社挙げての期待というプレッシャーと現在の化粧品業界の状況を考えるとこの展開は必要な選択であったということも理解できるますし、そういう意味での「努力」には敬意を示したいと思います。今後の展開に注目。
 
 ・あと、一番残念だったのは、キャンペーンの第一弾のオンエアが(キャンペーンのイントロである)『風を感じて』篇ではなく(篠原と栗山だけの、口紅の商品告知である)『それは唇から』篇で、なおかつその中で「セリフと唇の動きが違う」というちょっとケチが付いたことをやってしまった、ということです。大事なブランドの立ち上げだけに、このあたりのコントロールでバタついてしまったのは大変にもったいない、資生堂らしからぬことでした。
 
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